情操教育‪α‬

忘却炉に送るまえに

0605

ミーティングがあったので早起きした。実家には下着も寝間着も服も適当なものしかない。

実家はやけに静かだった。昼は鳥の声、夜は蛙の声だけが主に聞こえて、空気がしっとりしていて、ゆたかに土と葉のにおいがして、やけに景観がひらけていて、見渡す限り濃い緑色で、猫が居眠りしている。この、遠くにいる、社会の中心から隔たっている、みたいな肌感覚が、焦燥感と窮屈さに結びついて、高校時代と去年実家に閉じ込められていた半年間の嫌な気持ちを丸ごとそのまま思い出す。中学生の時なんかは、もっと家の中に人がいたし、忙しくしていたからまだ良かった。今はただなんとなく午後を持て余している。絶対に主婦をしたくないな。

クーラーがついているから、夏休みのことを思い出す。夏休み、これもまたとても窮屈。近くにあまり友達の家がなかったし、ピアノのレッスンに行ったり部活に行ったり夏季講習に行ったりする以外には、おもに弟とずっと家にいたような記憶。どうしようもなく行き場もなく他になんの選択肢も知らなかったあれは閉塞感に満ちていて、そうとも知らず閉じ込められている心地だった。冷房のついた水色の空気、フローリングのつめたさ、冷蔵庫、麦茶とアクリルのコップ、西日の眩しさ、夏休みのしおり、夜更かし、そういうものがすべて蘇ってしまってそわそわする。もう自由を知ってしまったから、ただそこから強制的に引き離されているという気分で、とても寂しい。

ピアノを弾きたいのに、リビングにピアノがあるせいで、それを鳴らせば空間をものすごく支配してしまうから、心地よくそこらへんで過ごしている猫や弟に遠慮して今日もさわれなかった。

テスト前の弟が教科書をそこらじゅうに広げていた。コンピュータアーキテクチャ、情報数学、ネットワーク演習?とか聞いたこともない教科の目次を眺めるのは楽しかった。IPアドレスの項目は、昨日のライブエレクトロニクスの授業と少し関わりがあった。

とにかくずっと眠いし、低すぎるローテーブルか高すぎるダイニングテーブルしかここにはないからあまり作業能率はよくない。

早くからハイボールを飲んで、LiSAの録画してもらっていたテレビを見て、ちぐはぐな身体を読み終えて、皿洗いをするころにはすっかり酔いが覚めたので、課題をいくつか進めた。

こうして保温していた米がどんどん食べれなくなっていくみたいに、徐々に?それだったらいっそ、何かを決定的に間違えたい。